This is LAST

「別に、どうでもいい、知らない」

「別に、どうでもいい、知らない」

収録曲(全10曲)

「別に、どうでもいい、知らない」

「別に、どうでもいい、知らない」

つよがりと未練、痛みを抱えて想いを叫び続けるThis is LASTの「深化」する愛情表現

Text : 秦 理絵

「別に、どうでもいい、知らない」という言葉は、精一杯のつよがりだ。二度も浮気をして、あのとき、目を泳がせながら嘘をついた、笑顔が愛らしい君のことを、本当は「どうでもいい」なんて1ミリも思ってはいない――。This is LASTが11月25日にリリースする初のフルアルバム『別に、どうでもいい、知らない』を何度もリピートしているうちに、そのタイトルの切なさはどんどん増していった。ほぼ全編が元カノへの未練を吐露する全10曲。バンド名を現在の「This is LAST」に変えた2018年のデビュー以降、ボーカル菊池陽報の実体験をもとにした赤裸々な恋愛エピソードを歌にしてきたLASTは、初のフルアルバムでも、相変わらず、「僕が君をどれだけ好きか」を歌い続けていた。

 昨年11月に発表された初の全国流通盤『aizou』、今年4月の『koroshimonku』という2枚のミニアルバムを経て、バンド初のフルアルバムとなった今作には、デビュー1年足らずでThis is LASTの名前が広く知られるきっかけになった「殺文句」と「愛憎」の2曲も収録される。
“あなたが1番よ"。そんな「君」の殺し文句を信じて、2番目のオトコになり下がった無様な自分をリアルに歌った「殺文句」は、文字通りThis is LASTのはじまりの1曲だ。当時、まったく毛色の異なる激しめなバンドを組んでいたという陽報が、つき合っていた彼女にフラれたことをきっかけに書いたという。疾走感あふれるバンドサウンド、軽やかでキャッチーなサビにのせた感傷的なメロディと心を抉るリアルな歌詞。それがバンドの武器となり、いまへとつながっていく。歌詞に注目されがちな曲だが、演奏は骨太で荒々しい。その音に宿る激情も歌のやるせなさをいっそう強く掻き立てる。

 ノンプロモーションながら、「殺文句」のミュージックビデオが再生数を伸ばし、じわじわとバズりはじめたころに追い打ちをかけたのが「愛憎」だった。イントロなしで歌い上げるハイトーン、“誰かの代わりなんて知ってるから"という悲壮感に満ちた歌詞、キャッチーさはありながら、「殺文句」よりも重めに仕上げたバンドサウンドは、愛情の裏返しにある「憎」の感情にも気づきはじめた自身の葛藤を表すようにも聴こえる。それでも一度好きになった「君」を嫌いになることはできない。LASTの歌の痛みには、その根底に「優しさ」が深く漂っている。

 その他、アルバムの収録曲には、「秋」をキーワードに文学的な表現も取り入れた「左耳にピアスをしない理由」、抑揚のあるドラマチックなアレンジで心の機微を描いたバラード「終電」や、爆発力のある演奏にメタルコア系バンドだった頃の名残を感じさせる「ディアマイ」など、様々なアプローチの楽曲が並んだ。その全曲に共通するのは、個々のプレイヤーの演奏力、テクニックが上がったことで、いままで以上にロックバンド感が強まったことだ。コロナ禍におけるライブ活動の制限によって制作に集中できたことも要因らしいが、あえてスリーピースの楽器編成にこだわり、「幅広く」と言うよりも、「奥深く」バンドの本質を突き詰めたことで、とてもソリッドな作品に仕上がった。
なかでも、リード曲「ひどい癖」は進化したバンドのいまを感じるナンバーだ。4つ打ちのバスドラに滑らかに加わるベースライン、キラキラとしたギターが疾走感を加速させ、セッションのように幕を開けるイントロ。ダンサブルなビートは、その昂揚感とは裏腹に歌詞に込めた悲しみを余計に強くあぶり出す。癖をテーマにした歌詞には生々しい言葉も綴った。それは、陽報の曲作りにおけるひとつのテーマでもある。過去のインタビューでは、「ふつうだったら、こんなにえげつないところまで話さないなっていうところを入れたい」と言っていた。人間のどろどろした汚い部分も包み隠さずに歌うからこそ伝えられる痛みがある。それが、彼らが音楽でもっとも表現したいことなのだと思う。

 最後に、ラストナンバーとして収録されている「病んでるくらいがちょうどいいね」についても触れておく。今作のなかでは、唯一、ラブソングではない楽曲だ。ハンドクラップを巻き込みながら陽気に弾むサウンドにのせて、ネガティブな自分の性分を嘆きながら、それをなんとか肯定しようと歌っている。メンバー全員で調子っぱずれに叫ぶ“「病んでる僕らだからこそ!」"のフレーズが痛快だ。ここまでの9曲で自身の恋愛遍歴を無防備なまでにさらけ出してきた「菊池陽報」とは、どんな人間なのか、その人物像が一気に伝わる曲でもある。そこには、こんな時代だからこそ“意思"をもって生きようという泥臭いメッセージも潜ませた。最後にこの歌があることで、この『別に、どうでもいい、知らない』という作品は、より人間くさくなったようにも思う。全力で誰かを好きになって、打ち砕かれて、それでも“気の持ちようさ"と前を向く。それがきっと「生きる」ということなのだ。

2018年5月結成、千葉県柏市発、3ピースロックバンド。赤裸々に実体験と思いを綴った歌詞と、感情的なライブ・パフォーマンスがSNSやライブハウスを中心に多くの若者から支持を集め、デビュー 2年にして「愛憎」がYouTubeでの再生回数が60万回「殺文句」はノン・プロモーションにも関わらず50万回を超える。また、タワーレコード渋谷店限定CDが即完するなど、何かと若い世代に"バズり"まくっている。各地の人気ライブ・サーキットへの出演、そして入場規制を起こすなど、天井知らずの勢いで拡大をみせる。今作は"スリーピースロックバンド “としての魅力を最大限に活かして創られた彼らの「今」を体現した1st Full ALBUM!「活動が制限された時間」を創作に注ぎ続けたゆえの“深化"したサウンドで、さらに勢いを増す!次頑張ればいいや、は絶対にない。まさに“今、1番絶対に聴くべきバンド"。